Re: Stars

ますだ沼暮らし。

小説「ピンクとグレー」と映画「ピンクとグレー」


(ネタバレを含みます)

映画「ピンクとグレー」公開おめでとうございます。エンドロールで「原作 加藤シゲアキ」の文字を見た瞬間、じわじわと感動がやってきました。

ピンクとグレー

ピンクとグレー


まだ1度しか映画を観ていない(ので、セリフ等は曖昧)ですが、感想を書いておきたいと思います。


映画化が発表されたのは、今からちょうど1年前の2015年1月14日。

その時の記事では、「河田大貴(中島)」と明示されていましたので、小説から映画化の発表、予告を順に追っている人には62分後の衝撃はそれほど衝撃ではなかったかもしれませんね。
ただ、62分後からの世界は衝撃的ではありました*1。そして考えれば考えるほど、小説のりばちゃんが見た結末と、映画のりばちゃんが見た結末は、逆の方向を向いているように思えます。

小説「ピンクとグレー」は、もがきながら混ざり合っていく物語。
映画「ピンクとグレー」は、もがきながら他者と決別する物語。


小説のごっちにとって、りばちゃんはヒーローで、自分と同じ場所に来てほしいと願っていたけれど、映画ではそういう描写は全くなかった。映画のごっちは努力してスターになった手の届かない人。りばちゃんはどこまでもダメな人間。死ぬこともできない。だけど「それでいい」。
「それでいい」というのは、柳楽くん演じるごっちが最後のシーンで言ったセリフだけど、このシーンのごっちは霊でもなんでもなくて、りばちゃんの頭の中にいるごっち。だから「それでいい」と結論を出したのはりばちゃん自身なんです*2

他者と自分は別の存在である。
完全に分かり合えることなんてない。
でも、それでいい。

映画のりばちゃんに対して、成瀬がひどく突き放すようなことをするのも、ごっちの死の理由をはっきりと姉のためとしたのも、りばちゃんにそう結論付けさせるための分かりやすい方法だったんだと思います。


私の中で結構引っかかってるのが行定監督がおっしゃっていた「りばちゃんのIQを下げた」という話で、実際はIQの高さで人間性や学力*3は決まらないだろうけど、感情を上手く消化できていない短絡的な行動*4に見られるような、どうしようもなくダメな部分を「IQを下げた」=人間くささを出したと言っているのでしょう。

IQという言い方はともかくとして、映画の場合は観客に受け入れられやすいように人間くささを出す方がいいという話は、なるほどなぁと思いました。

行定監督が目指した映画「ピンクとグレー」は、小説を読んでいない観客と、小説ファンの観客と、どちらにも爪痕を残す大胆なやり方をしているのかもしれません。
ものごとって、比較することで見えてくるものが多いと思うんですよね。小説「ピンクとグレー」とは別の路線を取る、映画「ピンクとグレー」を観ることで、小説ファンにとっては小説「ピンクとグレー」がもっとクリアになったのかなと思いました。

「映画は映画だからいいのよ」とごっちのお母さんは言いました。作中ですでに公開されている映画に関して現実と違うところがあった、とごっちにビデオテープを渡すシーンです。
このセリフって行定監督があえて小説と違う路線を取ったのだということを暗に伝えていたりして。…なんて。


そういえば、映画化が決まったあとにこんなツイートをしていました。


楽しい。…聞くのも楽しいし、話しながら自分の頭で整理していくのも楽しい。楽しいから、もう少し話してもいいですか?笑

映画「ピンクとグレー」で気になったポイントについて少しだけ。

▼煙草
映画では煙草の描写が印象的に描かれていました。同窓会で再会したりばちゃん(菅田くん)とごっち(裕翔くん)は、ライターを交換した後ふたりで煙草を吸います。しかし、現実のりばちゃん(裕翔くん)は煙草を吸おうとしてはむせていました。
煙草が芸能界を暗喩していて、現実のりばちゃん(裕翔くん)が芸能界に馴染めないことを表しているのなら、りばちゃん(裕翔くん)とのベッドシーンのあと三神が「本当の自分なんて自分でも分からないのに」と言って、吸っていた煙草を灰皿へ押し付けて消すところがすごくおもしろいなと思いました。

▼関西弁
映画のラストシーンで、りばちゃん(裕翔くん)が、ごっち(柳楽くん)の看板へデュポンを投げ捨てながら「しょーもな」とつぶやきます。これは物語の始まり*5を思い起こさせるシーンでした。
それからもうひとつ、自殺したごっち(裕翔くん)を発見したりばちゃん(菅田くん)がサリーに電話をかけて「発見したから連絡せな…」と言い、サリーに「なんで関西弁なの…?」と言われるシーンが冒頭にあります。そのやり取りがとても印象的だったのですが、最後にごっち(柳楽くん)と対話するりばちゃん(裕翔くん)も関西弁になっていて、この関西弁というのも暗喩なんだろうなぁと思うわけですが。

…他にも、「約束」のこととか「風船」こととか「渋谷」のこととか「色」のこととか、考えたいことはたくさんあるんだけど、タイムアップ。ということで、ここでおしまいにします。

それから、アイドルファンの身としては、小説「ピンクとグレー」を書いた加藤シゲアキとNEWSとか、映画「ピンクとグレー」を演じた中島裕翔とHey! Say! JUMPとか、そういう目線でも語れることはたくさん思いつくけど、今回はそういう話はしないでおきました。

思考を刺激してくれるシゲアキ先生。ありがとう。大好きです。



*1:登場人物のキャラクター作りに関して。

*2: 言い切ったけど自信はない。

*3:映画のりばちゃんは大学に行っていなかった。

*4:サリーを襲うシーンは高校生の時だけでなく大人なってからも出てきて、あまり成長が見られないと言える。

*5: 大阪から引っ越してきたりばちゃんが「しょーもな」と言いながら壁に野球ボールを投げているところに、ごっちとサリーがやってくる場面。