にべもなく、よるべもなく
加藤シゲアキ先生。初の短編集『傘をもたない蟻たちは』の発売おめでとうございます。
- 作者: 加藤シゲアキ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2015/06/01
- メディア: 単行本
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今回は、書き下ろし作品の『にべもなく、よるべもなく』を読んで思ったことを少しだけ。ネタバレになりそうなので、諸々ご了承の上お進みください。
『にべもなく、よるべもなく』は男性同士の恋愛がテーマということで、その部分だけが注目されている感じがありますが、主人公の純が思い出して吐き気を催す「カビに塗れたあのレザージャケット(p.207)」の臭いは、単に同性愛への嫌悪というだけではなくて、変わってしまったお兄さんや、お兄さんを変えてしまった東京、親友のケイスケが自分より先に性に目覚ていたと知ってしまったこと、全部含めてなんだろうなぁと思います。
レザージャケットは憧れの象徴で、「高校生になるまで(p.215)」大切にしまっておくのだけど、お兄さんへの憧れも、東京に対する憧れも、友情も恋愛も、現実はそんなに美しくなくて、カビに塗れてしまった。
「理解なんかしなくていいんだよ。僕は純ちゃんと違うんだ。でもそれでいいんだよ(p.245)」とケイスケは言ったし、シゲアキ先生は「ガッツリ僕の小説に共感してもらおうとは思ってません」*1と言ったけれど、「僕がケイスケを理解してやる(p.212)」「ケイスケを理解してやれるのは自分しかいなかった(p.213)」と感じた純が、シゲアキ先生の本質なんだろうと思いました。
ちょうど同じようなタイミングで、シゲはまっすーへこんなメッセージを残してくれています。
まっすーは、そのこだわりと、ときどき飛び出す突拍子もないアイディアから、誤解を受けることも多い。でも僕は、そのこだわりやアイディアは、NEWSをよりよくしたいと思うからこそ出てくるものだって知ってる。だから、まっすーの力になりたいし、少しでもまっすーの頭の中に広がる世界を理解できるようになりたいと思ってる。(『Myojo』2015年7月号)
ますださんにとって、「理解」と「優しさ」は直結していないかもしれない。けど。そんなふうに最大の優しさを持って接してくれるシゲのことが、ますださんは大好きなんだろうな。
余談ですが、『にべもなく、よるべもなく』のことを「よくあるBLみたいに美しくはないぞ」*2と言ったシゲアキ先生が、どこでどうやってどんな「よくあるBL」を知ったのかは分からないけど、「よくあるBL」を赤津の部屋で見つけてしまった純が、「みんなもっと葛藤していて、苦しくて、そんな人たちを美化して誰かが面白がるなんて、最低だ(p.235)」と感じたところに、いちばん差別的な心を見てしまった気がしています。
だってそれを言ったら、きっと男女の恋愛も「よくある少女マンガ」みたいに美しくないのに。男女の恋愛は美化してよくて、男性同士の恋愛は美化しちゃダメなのかなーって。私には、どんな直接的な嫌悪の表現よりも、この一節を重く感じました。
…余談が長すぎた。
というわけで、以上が『にべもなく、よるべもなく』の感想でした。
「(性描写は)描きたい物語に必要だっただけなんですけど、そこを避けて作るということが、もし、ジャニーズだからっていう理由だったら、いらないと思ったんですよね」『NEWS ZERO』2015年6月1日放送
わたしは、アイドルだからキスシーンNG、みたいなのは納得いかないのです。たとえアイドルでもお芝居をするなら役者としてそこにいるべき、と思っていて。…だからシゲアキ先生のこと、好き。
— Naru (@restars4) 2015, 6月 1